1本の枝として生まれ、15年で6種類に成長した照明。
その進化の理由は、最初の完成度にありました。
モーイ(moooi)のヘラクレウムは、2010年にオランダ人デザイナー・ベルトヤン・ポットが発表したサスペンド型LEDペンダントライトです。
「多数のLEDを同時に点灯させたい」という実験的な衝動から始まり、モーイ独自の「エレクトロサンドウィッチ」技術との出会いを経て、デザイナー本人が「当初の期待以上に細い構造が実現できた」と語る完成形に至りました。
ステデライク美術館(アムステルダム)のコレクションにも収蔵されるこの照明は、2022年の「ヘラクレウム3」でさらに進化しました。
<目次>
1. ヘラクレウムとは|実験から生まれた名称と造形
2. エレクトロサンドウィッチ|見えない技術が完成を支える仕組み
3. ヘラクレウム3の4つの進化ポイント
4. 全6機種の比較と用途別の選び方
5. 設置のポイントとコーディネート事例
1. ヘラクレウムとは|実験から生まれた名称と造形
ヘラクレウムは、モーイが製造・販売するペンダントライトです。
デザイナーはオランダのベルトヤン・ポット。
2010年の発表以来モーイのベストセラー照明として世界中に普及し、ステデライク美術館(アムステルダム)のデザインコレクションにも収蔵されています。
ポットは「素材研究を制作の出発点とする」デザイナーとして知られています。
Dezeenのインタビューでは、「手が頭を驚かせてほしい(I love it when my hands surprise my head)」と語っており、ランダムライト(1999年)やカーボンチェア(2004年)など、モーイとのコラボレーションによる代表作はすべて実験的なプロセスから生まれています。
ヘラクレウムの出発点は植物の模倣ではなく、「多数のLEDを同時に点灯させたい」というシンプルな電気的な願望でした。
電線の束を枝状に成形する試作を重ねた結果として、細い茎の先端に小さな花が傘状に広がる多年草「Heracleum」と酷似した有機的なフォルムが生まれました。
ゴールが決まっていたデザインではなく、実験の過程で自然に辿り着いた形、だからこそ、振る舞いに無理がなく、完成度の高いデザインになったのかもしれません。
これがヘラクレウムの完成度の本質です。
技術の難しさを感じさせず、ただ自然なものとして空間に存在できること、それは、問題を解いていくプロセスがそのままデザインの完成につながった証です。
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2. エレクトロサンドウィッチ|見えない技術が完成を支える仕組み
ヘラクレウムの繊細な枝構造を支えるのが、「エレクトロサンドウィッチ」(ELECTROSANDWICH)」です。
マルセル・ワンダース・スタジオが開発し、モーイが特許を保有する独自技術です。
通常の照明では電線の内通が必要で、電線の太さがフレームの細さを制約します。
エレクトロサンドウィッチは、この問題をまるごと解決します。
仕組みの概要:
1. 金属フレームの表面に絶縁用の樹脂層をコーティング
2. その上に導電層をコーティング
3. フレーム自体が電線の役割を果たし、LED へ直接給電
この技術の導入によって起きたことは「問題の解決」だけではありませんでした。
ポット本人が「**当初の期待以上に細い構造が実現できた**」と記したように、技術がデザインを超えた瞬間でした。
見る人が「電線がない」ことに気づかない、むしろ「植物のようだ」と自然に感じるこの体験こそが、エレクトロサンドウィッチの最大の成果です。
優れた技術とは、時として技術として見えないことで完成します。
3. ヘラクレウム3の3つの進化ポイント
2022年発表のヘラクレウム3は、旧ヘラクレウム2から2点が進化しています。
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① 光量が2倍以上に
同じ消費電力のまま専用LEDを刷新し、光量は旧モデル比2倍以上を実現。
※ヘラクレウム3のLEDはヘラクレウム2とは互換性がありません。
② DALIシステム対応
照明調光の国際規格「DALI(Digital Addressable Lighting Interface)」に対応。
器具1台単位での個別調光・シーンプログラムが可能です。(別途制御システムが必要)
なお、各製品には、NFCチップ搭載「ザ・ボタン」が付属し、正規品の証明と真贋確認の役割を担っています。
4. 全6機種の比較と用途別の選び方
2010年の1機種から始まったヘラクレウムは、モーイが植物のモチーフに掛けて「永遠の成長(Eternal Growth)」と呼ぶように、用途・空間規模に応じた6つの家族へと拡大しています。
機種
外形寸法(目安)
LED灯数
主な用途
ヘラクレウム3スモール
Φ約72cm
45灯
2〜3人ダイニング・寝室
ヘラクレウム3
Φ約98cm
63灯
4〜6人ダイニング(定番)
ヘラクレウム3スモールビッグオー
Φ約160cm
90灯
リビング・大型ダイニング
ヘラクレウム3ビッグオー
Φ約210cm
324灯
吹き抜け・ホテルロビー
ヘラクレウム3エンドレス
W116cm(連結可)
45灯
廊下・階段・長尺空間
ヘラクレウム3リニア
W155×D71×H42cm
72灯
長方形ダイニングテーブル
カラー: ニッケル・カッパー・ホワイト・グリーン*(全4色)
*グリーンは在庫限りとなります。
選び方の目安:
・円形テーブル(4~6人) → ヘラクレウム3
・中型ダイニングや複数で組み合わせ→ ヘラクレウム3S
・長方形テーブル → ヘラクレウム3リニア
・大型リビングのメイン照明 → ヘラクレウム3スモールビッグオー
・吹き抜け・商業空間 → ヘラクレウム3ビッグオー
・廊下・空間全体を照明デザインしたい → ヘラクレウム3エンドレス
5. 設置のポイントとコーディネート事例
■ ダイニングへの設置
テーブル面から60~80cmを目安に吊り下げると、食卓をやわらかく包む光になります。
カッパーカラーは食材の発色を引き立て、ホワイトカラーはテーブル素材の質感を際立てます。
■ リビングへの設置
枝の間に「抜け」があるため、大型モデルでも圧迫感が出にくい特性があります。
天井高2.4m以上の空間でより効果的です。
■ 店舗・ホテルなど大型空間への応用
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エンドレスの連続使用でラインを構成するほか、コーナーパーツを使い空間の輪郭に沿った立体的な設置も可能です。
■ 設置時の注意事項
・電気工事士による施工が必要です
・DALI制御を使用する場合は対応システムの別途手配が必要です
・器具重量による天井構造の確認を推奨します
■ まとめ
ヘラクレウム(moooi|モーイ)は、実験的なプロセスと独自技術エレクトロサンドウィッチが融合し、デザイナー自身の想定を超えた完成度に至ったペンダントライトです。
「植物のようだ」と違和感無く感じる照明が、実はゴールとして植物のモチーフが決まっていたわけではなかったという事実。
そこにヘラクレウムの本質があり、15年かけて6つの家族に育った理由、魅力があるのではないでしょうか。
■ 所蔵美術館
ステデライク美術館(Stedelijk Museum Amsterdam) — オランダ・アムステルダム
■ デザイナープロフィール
ベルトヤン・ポット|Bertjan Pot
1975年生まれ、オランダ出身。
デザインアカデミー・アイントホーフェン(Man & Identity科)を1998年に卒業。
2003年、ロッテルダムにスタジオ・ベルトヤン・ポットを設立。
「素材研究をすべての制作の出発点とする」というスタンスをずっと大切にしており、コンピュータに頼らず手を動かすことを優先する手法で知られる。
モーイとのコラボレーションでは、ランダムライト・カーボンチェア・ヘラクレウムなどブランドを代表する複数のロングセラーを生み出している。
作品はステデライク美術館(アムステルダム)収蔵。